ファインプリントの大家には申し訳ないが The Aperture history of photography series 「Wynn Bullock」

こう言ってしまえばミもフタもないんだけれど、写真集というものでみる写真と、展示のプリントで見る写真は大きく異なる。当然、見た時の印象も異なる。写真集で見た時はいまいちピンとこなかった写真も、展示プリントで見てみるとなんだか結構インパクトのある写真だったなんていうこともある。逆のこともある。まあ、いい写真は写真集で見ても展示で見ても大抵はいいんだけれど。

これは、写真集というのが印刷で、プリントは印画紙に焼いているという違いもあるのかもしれないけれども、最近は展示プリントも印刷のことが多いし、写真集の印刷の質も上がってはきている。

だから、この印象の違いは、本というフォーマットで自宅や本屋で見るのと、ギャラリーや美術館での展示というシチュエーションの違いと、一枚のプリントにかかっている手間(クオリティーか)の違いからくるのかもしれない。

こんなことを考えたのは、今手元にApertureから出ている「The Aperture history of photography series」という写真誌に残る有名な写真家の作品を写真家ごとに一冊づつの本にまとめたシリーズの「Wynn Bullock」の刊があり、それをめくっていてふと思ったのだ。

Wynn Bullockはモノクロの美しいプリントを作ることで有名な人で、この写真集も、その美しいプリントを印刷で再現しようとしている。濃く引き締まった黒と、なめらかなグラデーションを再現するグレーと、スーっと浮き出るような白を再現するのに、結構頑張っている。そして、印刷にしてはなかなか善戦している。印刷のコントラストも高めで、本の値段の割によく再現されていると思う。

Wynn Bullockのオリジナルプリントを一度どこかの美術館で見たのだが、本物のプリントはやはりこの本の印刷とは次元の違う凄さがあった。黒の深さが思っていた以上で、写真はここまで豊かに黒を表現できるのかと驚いた。個人的にはアンセルアダムスのプリントよりもインパクトが強く、圧倒された。

かといって、この写真集「The Aperture history of photography series」ではWynn Bullockの写真を楽しめないかというと、そういうわけでもない。この本でも十分彼の写真を見て楽しむことはできる。この写真集のページをめくるだけで、いかに彼がこの世の質感や風景の中のコントラストにこだわったかが伝わってくる。それだけではない、彼の写真の世界は、まるでこの写真世界が本当は私たちの見ている世界と全く別の場所に存在しているのではないかというような感覚になる。写っているものそのものが何かという問題よりも、どう写っているかに目がいく。彼が写しているのは、確かに現実の世界なのだろうが、この世には存在しない架空の世界になっているのだ。

この写真集でも、そういう世界を感じることができる。一点一点のインパクトという意味ではオリジナルプリントの方が強いかもしれないけれど。むしろ写真集の方が、まとまった数点を繰り返し見ることができるという意味では、彼の写真世界に浸ることが容易にできるというメリットがあるとも言える。印刷で、プリントの凄さを見せつけられないが為に、写真のテーマの方に目が向くというか。いや、Wynn Bullockの作品は美しいプリントも含めて作品のテーマなんだろうけれど。

この際、一度、印刷のクオリティーの低い本で Wynn Bullockの作品をじっくり見てみたい。その時、今まで見えなかった Wynn  Bullockが見えてくるかもしれない。

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