Tangoはアルゼンチン人だからいいっていうわけでもないんだな。

最近は、ジャズやらクラシックやらばかり聴いていたら、ちょっと箸休めにタンゴを聴いてみたら、これがまた案外良かった。案外良かったというのも、なんだか演奏者に誠に失礼なのだが、タンゴというものを私はなんとなく誤解していた。

誤解していたのも仕方あるまい。世の中、タンゴのそれもアルゼンチンタンゴのCDが売っている店に行くと、CDの棚にはピアソラしか置いていないことがしばしばである。なにもピアソラが悪いと言っているわけではないのだけれど、ピアソラは確かにすごいんだけれど、あれはあれで、特別な形のタンゴであって、タンゴのスタンダードではない。

アルゼンチンタンゴはもっともっといろいろなスタイルがあるし、もともと、歌モノの曲が多い。

まあ、アルゼンチンタンゴっていう音楽の歴史はそんなに長い歴史があるわけでもないのだけれども、それでも、ピアソラが出てくるずっと前からタンゴは存在した。

有名どころでいうと、カルロス・ガルデルとか、いや、カルロス・ガルデルだってそんなに有名じゃないか。俺もいまガルデルの名前思い出すためにレコードラック見てしまったからな。まあ、そんなところの有名なタンゴ歌手がいる。ピアソラみたいに、うつむいてウンウン言いながら聴くような小難しいタンゴではなくて、もっとポピュラー音楽に、歌謡曲に近いようなタンゴ。

私も、そんなに詳しくはないのだけれど、そういう歌謡曲みたいなタンゴがかつて盛んに録音されていた。そこに、ピアソラみたいな「芸術」みたいな小難しそうな、賢そうなタンゴが出てきて、話がややこしくなった。

音楽というのは不思議なもので、話がややこしくならないほうが気楽に楽しめるのもあるだけでなく、長持ちする。いや、それはウソかな。現に、日本のレコード屋からはピアソラ以前のタンゴがほぼ死滅しているんだから。

それでも、複雑になったから、新しいものが出てきたからといって豊かになるというものではないのが音楽の常だ。あのマイルスデイヴィスだって、キャリアの中で、いろいろなスタイルの音楽をやったけれど、なんだかんだ言って、ハードバップをやっている頃の、それもモードジャズになる前のマイルスが一番とっつきやすいし、いつまでも聴くに耐えうる音楽だと思う。クオリティーの話を抜きにしておいたとしても。

私は、マイルスデイヴィスの音楽が好きなのだが、特に「My Funny Valentine」とか、あのあたりのアルバムが好きなのだが、一番聴いていてリラックスするのはマラソンセッションあたりのアルバムだ。あのあたりのアルバムは、結構やっつけ仕事で作っているという話を聞いたりするのだが、マイルスの、マイルストーンだと思う。

それで、タンゴ、今夜はウルグアイ出身のタンゴ奏者Hugo Diazのアルバムを聴いている。さしずめ「タンゴ名曲20選」といったような内容のアルバムなのだけれど、これがまたなんとも言えずいい。

ピアソラ以降のジャズを踏襲した音楽なんだけれども、それが、あまり面倒くさい話にならずに、古き良きタンゴの延長線上に位置付いていて、なかなか悪くない。古き良きタンゴと言っても、こもった音色でおじさんが歌を歌うというようなサウンドではないのだけれど、ピアソラのバンドのように締まっていて、シャープで、ちょっとオシャレで、その上でちょっと懐かしい。

こういう、タンゴなら、肩肘張らずに聞くことができる。