Patti Austinという名前を初めて知ったのはArturo Sandovalのアルバムで「Only you(No Se Tu)」というArmando Manzaneroの曲を聴いた時だ。
サンドバルの朗々と歌い上げるトランペットもすごかったが、パティーオースティンのなんだかしっかりした歌唱がぐっと胸にしみた。彼女の声がすごく生々しくて、歌い出しはちょっと控えめで、曲の後半に向けてドサッとそのパワーをぶつけてきて、エンディングではしっとりと聴かせる。その迫力と展開の見事さに一気に引き込まれてしまった。オブリガードを入れるサンドバルが彼女の歌にぴったりくっついてきて、トランペットソロでぐっと盛り上げると、パティーオースティンも勢いづいてきてエンドコーラスでフルスロットルまで持ってきて、その後さらりとしたエンディングに落ち着く。曲の展開としてはオーソドックスだが、だからこそシンプルに心に響く一曲だ。
YouTubeでQuincy Jonesの何かの記念コンサートで彼女が「How do you keep the music playing」を歌うのを見たことがあるけれど、ちょっとハスキーになった声でミッシェルルグランの名曲を歌い上げる姿はカッコよかった。クインシージョーンズのプロデュースしたジェイムスイングラムとのデュエット版(スタジオ録音)でもパティーオースティンは、ジェイムスイングラムが熱くなっている横でクールに歌っていて、その対比もまたいいのだが、ライブでもスタジオでも、声量を存分に使って歌っている時も常に先の展開を考えて冷静にコントロールしているようで、単なる熱い音楽にならない。とは言っても、その一方で、とてもエモーショナルでとても興奮させられる。巧妙につくられた音楽でありながら、エキサイティングである。
今日はパティーオースティンのEnd of Rainbowというアルバムを聴いていた。1976年に録音されたアルバムだから、彼女が20代の頃のアルバムだ。
一曲目の「Say you love me」を聴いて、ずいぶん透き通った彼女の歌声に驚かされる。今のパティーオースティンの歌声はどちらかというともうちょっとこってりしていてハスキーだ。このスッキリとした印象はアルバムを通して聴かれる。
そして、このアルバムは全曲彼女のオリジナル曲で構成されているのだが、どの曲もクセがなくあっさりしている。CTIレーベルから出ているアルバムだから爽やかなフュージョンアレンジになっているということもあるかもしれないけれど、なんだかJames Taylorのアルバムを聴いているんじゃないかっていうような気分になる。日曜の朝から聴けるアルバムだ。
こういうスッキリ・アッサリしたアルバムは、いつでも聴けるかわりに印象に残りづらくて、かえってあまり聴かなくなってしまうものだ。実際、私も一年以上このアルバムを聴かなかった。
しかし、実際聴いてみると、 CTIならではの、ストリングスが入ってくるアレンジなんかがちょっと特徴的だが、サイドプレーヤーも豪華でこの時代のフュージョンのベストメンバーと言える安定したプレイだし、全体としてはサラーっと聴けてしまうアルバムなので、気分がのっていないときでも聴ける。
ちょっと今のPatti Austinのイメージで聴くと拍子抜けするかもしれないけれど、彼女のクールで制御されたような歌唱は、こういう時代から続いているんだなあ、と再確認させられる。