Shut Up ‘n Play Yer Guitar

マルチなタレントに憧れることは憧れるのだけれど、それよりも、何か一つのことに秀でている人に強く惹かれる。例えば、ギタリストだと、ダニー・ガットンが好きなのだけれど、彼はギターを弾くことと、ホットロッド(改造車)をいじることに一生を費やしているように見えてかっこいい。

よく、ロックのミュージシャンなんかが、ステージで政治的な発言をしたりとか、最近では SNSなんかでそういう発信をする人たちがいるが、ミュージシャンはそういうことは言葉じゃなくて音楽で表現していればそれで良いと思う。これは、なにも政治に限ったことではなくて、美学・宗教・思想、なんでもそうだと思う。ギタリストはギターで表現できることで勝負している人の方が面白い。たとえ上手くても、いろいろな慈善活動とかに一生懸命だったりすると、その人の音楽にまでバイアスのかかった視線で見えてきてしまうのはとても残念だ。美学・思想・宗教も含めた総合的な表現として成立しているのであれば、それはそれで魅力的なのだろうけれど、残念ながらそこの域まで達している表現者を私はほとんど知らない。

私の無知も手伝い、こういうことを考えているのだけれども、音楽家はとにかくまず音楽に集中していればそれで良いと思う。いくらスケールの大きな音楽ができるとしても、そこに、政治や社会情勢、思想が存在するかどうかは別問題であるし、私は政治や社会情勢、思想なんていうものがにじみ出てこないような音楽の方が好みである。なにも、そういったいろいろなバックグラウンドがにじみ出てくる音楽が小難しくて嫌だというわけでもない。ただ、多くの場合、そういったものが提示される場合、それらがあまりにも陳腐で興ざめだということを何度か味わっているのでこう考えるに至ったのだ。

例えば、昔のジャズ喫茶でジョン・コルトレーンを聴いていた人たちなんかがジョン・コルトレーンを語るとき、ファラオ・サンダースの音楽を語るとき、政治や差別の話を持ち出してこられたことがあった。この人たちは、あの素晴らしい(あんまり好きじゃないけれど)ジョン・コルトレーンの音楽をそんなつまらない側面から「解釈」しちゃっているのかと思い、なんだか気の毒になってしまった。ジョン・コルトレーンにも、その熱く語っていたおじさんにも。

音楽そのものが面白くないところに、たとえどんなに深い思想や美学があったところで、私の興味は惹かない。もちろん、そういうものも音楽やら表現には必要なときがあるということは頭では理解しているつもりだ。政治的メッセージのないボブディランやギル・スコット・ヘロンは想像できないし、思想のないレナード・コーエンもどうも思いつかない。けれども、私は彼らが何について歌っていても、音楽としてつまんなければ、聞くに堪えないと思うし、その意味で実際問題ボブディランの多くの作品に私はほとんど興味がない。レナード・コーエンも詩は立派だが(大した好きではないけれど)好きなアルバムは少ししかない。

これは、音楽に限ったことでなく、絵画やら文学やらにすら同じことを感じる。文学なんかは、特に思想とか、社会情勢の塊のように思われる節もあるけれど、それらは文学として成立する必須要件ではない。むしろ、おまけだと思う。私は、インド系移民ではないから、ジュンパ・ラヒリの境遇について何も知らなければ、昨今のインドの情勢について全くフォローはしていないし、アメリカで流行っている社会思想についても明るくはない。けれど、彼女の作品は私の心に響いてくるし、そのちょっと安普請な部分も好きだ。社会は、作品にとってあらかじめ与えられたものなのかもしれないけれど、作品を鑑賞する私たちにとって作品の向こうの社会は作品から推し量れる程度のものでしかない。同時代の作品であるならばともかくとして、そんな頼りない手探りの、知ったかぶりの世界を前提に作品を鑑賞するという面倒な手続きを踏まなくてもこちらに届いてくるものを私は選びとってきた。

絵画なんかについては、私は絵画そのものの歴史すら知らない。けれども、好きな作品はいくつかある。確かに、これは欲しいなと思わせるものが、一応ある。好きなカントリー音楽も、その歴史やら流派やらについてはよく知らないのだけれど、そんなことお構いなく盛んに聞いている。

フランクザッパの作品に「Shut Up ‘n Play Yer Guitar」というアルバムがある。私の言いたいことは、まさにそれで、風刺やら、ちょっと賢そうなギミックを多用する暇があるなら、とにかくまず黙ってギターを弾いていて欲しいのだ。そういうことをストイックにやっているミュージシャンが私のお気に入りには多い。

なにも、ジョン・レノンの悪口言っているつもりではないのだけど。

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