ジャズに新しい古いを求めなくなったからこそ楽しめるアルバム「Ruby Braff Goes “Girl Crazy!”」

ジャズにスリリングなものを求める方にはあまりウケが良くないかもしれないけれど、私はRuby Braffというトランペッター(コルネット)が好きだ。何ら新しいことをやっていたわけでもないので、ジャズの歴史を書いた文献の中ではなかなか登場しないけれど、ディキシーランドやスイングジャズがお好きな方ならよくご存知かもしれない。

代表作の多くが50年代中盤以降にリリースされているので、時代としてはハードバップなんかが盛んに演奏されていた頃なのだが、ルビー・ブラフは古いスタイルを継承しジャズを奏で続けた。

70年代に入ってリードギターのGeorge Barnesと双頭カルテット(コルネット、リードギター、リズムギター、ベースという編成)で人気を博した。このカルテットでの演奏もなかなかいいのだけれど、一番脂がのっていたのは50年代だったと思う。

脂がのっていたとは言っても、熱いソロをバリバリ吹くイメージではなく、古き良きディキシーランドからスイングスタイルのジャズに少し新しい要素を加え、肩肘張らないアルバムを残していた。当時のことをリアルタイムで知らないから、実際どういう風に受け止められていたかはわからないけれども、1955年のダウンビート誌の賞をもらっているくらいだから、結構人気はあったのだろう。

1959年の彼のリーダー作で「Ruby Braff Goes “Girl Crazy!”」というアルバムがある。このアルバムなんかは彼の真骨頂で、当時バリバリのハードバップをやっていたメンバー( Jim Hall, Hank Jones, Al  Cohn等)と一緒に、ガーシュウィンのミュージカルの曲を演奏し、ルビー・ブラフなりの「新しい」味付けのジャズをやっている。

このアルバムでも、ルビー・ブラフはいつもの調子でのびのびとオールドスクールなトランペットを吹いている。当時としてはかなり古臭いアレンジを施しているせいか、他のメンバーも、それに合わせてかやや控えめなソロを繰り広げている。

まず、ソロよりもアンサンブルに重きを置いたアレンジである。ディキシーランドスタイルのアレンジはアンサンブルもアドリブのようなもんなのだが、各プレーヤーのソロが短めである。その短めのソロの中で、各プレーヤーの魅力があふれている。

特に、ジム・ホールのソロは、短い中にも新しい(当時の)ジャズの香りが漂う演奏になっている。このアルバムで初めてジム・ホールを聴くという人はそんなにいないかもしれないけれど、ジム・ホールって小洒落たギタリストなんだな、もうちょっと聴いてみたいな、という気分にさせられるソロである。

ハンク・ジョーンズはスタイルに縛られない、いつもながらの安定したピアノを聞かせる。このアルバムの完成度の高さは、この人のピアノによるところが大きいだろう。所々で、ハンク・ジョーンズのピアノがいいアクセントになっている。ハンク・ジョーンズのおかげで、このアルバムはモダンなサウンドに仕上がっているとも言えるだろう。

そして、何より、このアルバムのいいところは、音楽そのもののリラックスしたムードだ。ルビー・ブラフはハイノートもヒットするし、結構自由自在に彼のスタイルでソロをとる。他のメンバーは、やや控えめだけれど、各々のスタイルでアドリブを繰り広げるのだけれど、そういうところも含めても音楽のバランスが絶妙にとれていて、聴いていて楽しいアルバムである。

ルビー・ブラフだって時代の波に逆らうことはなかなか大変だったと思うけれど、このアルバムではそういう時代の波の中でのルビー・ブラフなりの漂い方を出せていると思う。ジャズは、新しい古いで良し悪しを決められるもんじゃないということを改めて考えさせられる。

70年代に入って、50年代のジャズのスタイルが時代遅れになった時に、ルビー・ブラフの人気が再燃したのもわかる気がする。こういうもともと時代遅れと思われるような音楽の本当の良さは、時代に縛られることがないくらい時間が経たないとなかなか見えてこないのかもしれない。

ジャズに新しさを求めなくなった今だからこそより一層魅力が伝わってくるアルバムであり、良いものはいつの時代も良いということの一つの証だと思う。