煌びやかでいて耳に心地良いギターのサウンド Les Paul and Mary Ford 「Fabulous Les Paul and Mary Ford」

楽器というのは不思議なもので、同じ機材を使っても同じ音が出せるというわけではない。そもそも、同じ楽器を使っても奏者によってセッティングや調律が違ったりもする。たとえ、同じセッティングにしても、二人の違う奏者に弾いてもらったら違う音がなるということはよくある。

電子ピアノとかの場合は同じ音がなるのかもしれないけれども、アコースティックな楽器だとこういうことが起こる。アコースティックな楽器に限らずともエレキギターなんかもそうである。

何が違うのかは専門家に聞かないと詳しいことはわからないけれども、奏者によって鍵盤の叩き方(押し方という方が正確か)、弦の弾き方、息の吹き込み方が違うからそうなる。逆に言うと、そういう弾き方を近づけることによって、憧れの音に限りなく近づけることはできるとも言えるだろう。

ギターの場合、ミュージシャンの使用している楽器やセッティングについて、雑誌や書籍でWebサイトなんかでかなり詳しく紹介されていることがあるので、憧れのギタリストの使用機材とほとんど同じものを手にすることも可能だ。厳密には個体差もあるだろうけれども、そういう努力で、憧れのギタリストの音にかなり近づけることはできる。

一方で、ギタリストのタッチを真似するというのはすごくむづかしい。今はYouTubeなんかがあるから、憧れのギタリスト本人が奏法について懇切丁寧に解説してくれたりするチャンスもあるけれども、そんな映像を見ても、実際のところどんな強さで弦を押さえているのか、弾いているのかはなかなかわからない。そういうことは、本人じゃない以上、いくら真似しようと思っても結局習得できないことなのと同時にミュージシャンの企業秘密でもあるのだろう。

Gibson Les Paulというおそらく世界一売れているアーティストのシグネチャーモデルのエレキギターがある。エレキギターにあまり興味がない人もご存知のギターだ。平たく言うとLes Paul氏の使用していたギターのレプリカモデルとその派生モデルだ。レス・ポールさんは相当このギターが気に入っていたか、義理堅い人だったのか、生涯ずっとこのシグネチャーモデルを使っていた。

Gibson Les Paulといえば今や色々なジャンルの音楽奏者に愛用されている。ジャズではかつてジム・ホールがレスポールカスタムを愛用していたし、アル・ディメオラが自身のリーダーアルバムのジャケット写真で持っていたりもしていた。ロックではランディー・ローズをはじめとするヘビーメタルギタリストの多くが愛用しているし、ジミー・ペイジ、エリック・クラプトン、ジェフ・ベックのいわゆる「3大ギタリスト」全員が愛用していた。クラプトンなんかは今でこそストラトをメインで使っているけれど、かつてレスポールをマーシャルのコンボアンプに繋いで程よく歪んだサウンドでブルースギターの新しいスタイルを確立した。

そういう色々な音楽で使われて、いろいろなサウンドを生み出している楽器だけれど「レスポールらしい音」のイメージというのがある。太くて、どっしりしていて、力強い音だ。そういう音だから、歪ませた時にも芯がくっきり出るという利点もあり、特にロックギタリストに愛用者が多いのだろう。

それでは、レス・ポール氏ご本人のギターの音はどんなんだったかというのが気になるところだ。

何枚かのレス・ポール氏のアルバムを持っているのでCDやレコードで聴いたことはあるのだが、これが意外に「レスポールらしい音」というイメージとはちょっと違う。艶やかで、キラキラしていて、はじけるような音がする。高音も耳にうるさくなく、粒が揃った煌びやかな音色だ。低音は太めながら、アタックがしっかりした音がする。

ご本人が使っていたレスポールモデルも時代により変遷があるので、どのアルバムでどれを使っていたかはわからないけれど、50年代から晩年までレス・ポール氏のギターサウンドはそういう音である。

「Fabulous Les Paul and Mary Ford」という1965年発表のアルバムがある。ジャズのスタンダードや、カントリーのスタンダード曲を演奏し、レス・ポールがギターソロを存分に披露し、何曲かでは奥さんだったMary Fordが歌も歌っている。あまり有名なアルバムではないけれど、とても楽しめるアルバムだ。

1965年だからGibsonから出ていたいわゆるレスポールモデルはなかったわけだが(1961年からレスポールのボディーシェイプが変更になったことを受けレス・ポールのシグネチャーモデルとしてのギターはこの年代にはGibsonからは出ていない)、おそらく彼はLes Paulモデルを使っている。ジャケットの写真ではうまいことギターのボディーシェイプが見えないようになっているけれど、Les Paul Customと思われるギターを持っている。

そして、このアルバムの彼のギターの音もやはり、艶やかで、キラキラしていて、はじけるようで、耳に心地良いサウンドなのだ。このレスポールのサウンドを出しているギタリストを他に聴いたことがない。唯一無二のサウンドなのだ。

同じ、レスポールというエレキギターを使ってもこうも違うサウンドが出せるのかと驚いてしまう。エレキギターがお好きな方には是非レス・ポールのギターサウンドを聴いてほしい。初めて聴いたら、おそらくその意外なレスポールサウンドに驚くだろうから。

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