Tom Harrell入門盤  Bill Evans 「We will meet again」

好きなトランペッターはたくさんいるけれど、中でもチェット・ベーカーとトム・ハレルは特別だ。

チェット・ベーカーについては別に機会に書くとして、トム・ハレルについて今日は書きたい。

とは言っても、書くべきことがはっきりと思いつかない。彼について、何を語るべきなのか、自分の言葉で表現できるのかがわからない。トム・ハレルのトランペットは個性はあるけれど、派手ではないので書きづらいのだ。

まず、彼のトレンペットの魅力はその音だ。暗く、さっぱりとしていて、枯れたような音色。けっして煌びやかな音色ではないんだけれど、トランペットという楽器の魅力を十分に伝える音色だ。一言で言うと、いぶし銀のような音色だ(曖昧すぎるか)。

トムハレルのソロはあまり高音は使わないで中低音を中心に展開されるのだが、ハイノートを吹いても、それがキラキラピカピカしない。シブいという表現がぴったりなハイノートである。中低音も、一音一音が、霧の中から紡ぎ出されるような音である。

テクニックは物凄くあるだろうし、音の数自体は少ないわけではないのだけれども、彼のトランペットは寡黙である。時につぶやくように、熱くなっても声高にならない。不要なひけらかしはない。ソロの時も盛り上がりはあるのだけれども、その盛り上がりは派手さやガジェットによるものではない。あくまでも彼の言葉の文脈上の盛り上がりである。

これは、音楽的にはとても高度なことなのだろうけれど、聴いている私にとっては、難解だという印象は受けない。彼の音楽を理解しようというよりも、彼の音楽を感じようという気分にさせられる。難解という印象よりも先に、彼の出す音色、フレーズに聴き入ってしまうのだ。

ビル・エヴァンスか彼のアルバム「We will meet again」でトム・ハレルをトランペッターに起用しているが、このトランペットが、アルバムのムードを作り上げている。もちろん、リーダーのビル・エヴァンスが音楽を構築しているのだけれど、彼を筆頭とした極上のリズムセクションの中でラリー・シュナイダーのサックスと、トム・ハレルのトランペットがほどよく絡みあい語り合う。

このアルバムは4曲目の、スタンダード曲の「For all we know」を除いては、全曲ビル・エバンスのオリジナル曲で構成されている。50年代のビル・エヴァンストリオがよく演奏していた曲と、70年代に入っての曲が混ざっている。

ここでのトムハレルは、比較的饒舌である。饒舌とは言っても、リー・モーガンのような熱く、明るく、パリパリ、シャキシャキした感じではなく、クールに曲を盛り上げる。ラリー・シュナイダーのサックスがしなやかにイキイキとソロをとるのに合わせて、トムハレルも華があるソロをとる。それでいても、彼のトランペットは暗く、枯れたような響きだ。ビル・エヴァンスの曲自体が暗いということもあるけれど。

トム・ハレルのリーダーアルバムを何枚か持っているけれども、彼のアルバムはだいたい全曲彼自身のオリジナル曲で構成されている。とてもコンセプトが決まっていて、よく作り上げられたアルバムが多い。その点、少しこむづかしい音楽になっていて、するっと聞き流せるようなものは少ない。どのアルバムも魅力的なのだが、聴くのにこっちも覚悟がいる。

彼のアルバムの中にもとっつきやすいやつが幾つかあるので、それは後日紹介しよう。トム・ハレルを初めて聴くのには、この「We will meet again」がお勧めだ。

もちろん、リーダーのビル・エヴァンスも素晴らしい。フェンダーローズピアノなんかも顔を出して、ビル・エヴァンスの安定した魅力を発揮してくれる。

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