ピアノレスのワンホーンカルテット Art Farmer Quartet “Interaction”

ピアノレスのワンホーンカルテットというのもたまには悪くない。

私はもともとジャズのピアノというものをあまり一生懸命聴いてこなかった。ジャズの世界には凄腕のピアニストはたくさんいるのだけど、じゃあ凄腕だったらかっこいいかと言うと、必ずしもそうではない。ジャズのピアニストには、上手いのだがグッとこないという人が多い気がする。それは、ピアニストが悪いわけではなく、ピアノという楽器のせいであるような気もする。

ピアノという楽器は、両手の10本の指をフルに使って演奏できるもんだから、一気に弾ける音符の数も多い。そのせいもあってか、バンドはピアニストに多くのものを求めがちになる。和音やら、メロディーにとどまらず、メロディーラインに呼応するハーモニー、ベースライン、リズム(ノリ)、バンド全体のダイナミクス、その他多くのものをピアノという楽器に頼ってしまう。そのためもあってか、ピアノがしっかりしていると、他のメンバーがテキトーでも音楽は成り立ってしまったりする。それに乗じて、ピアニストはピアノ一台でいろいろなことをしようとしてしまいがちである。ピアノ一台で、ビッグバンドのようなサウンドを出したり、複雑なリズムを組み合わせて弾いたり、とにかく大忙しである。

私は、きっとそういう大忙しの音楽が好きではないのだろう。大忙しでも、良いものは良いのだけれど、そういう良いのは少ない。どうもテクニックや、実験的な野望のようなところばかりが目立ってしまい、肝心の音楽の面白さが伝わってこない。

そういう事情もあって、ピアノもののジャズはあまり積極的に聴いてこなかった。

今夜も、ピアノレスのワンホーンカルテットを聴いている。アート・ファーマー(フリューゲルホルン)カルテットの”Interaction”というアルバムだ。このころのArt farmer Quartetはジム・ホールがギターを担当していて、ピアノレス編成でやっていたようだ。ピアノが入っていない編成だと、やっぱりちょっとおとなしい音楽になってしまうのだけれど、その分アート・ファーマーの渋い(燻し銀の?)フリューゲルホルンが引き立つ。

ラッパ、ギター、ベース、ドラムスといった編成で録音されたアルバムはあんまり他に持っていないけれど、晩年のチェット・ベーカーも同じような編成で何枚かライブ盤を吹き込んでいる。あれはあれで暗くて好きなんだけれど、アート・ファーマーはもうすこしどっしりと構えていて、音楽が危なげない。音符の数は最小限に抑えられているんだけれど、そこでできることをとことん追求している。それでいて、音楽に無理がなく、面白い。小難しくなく、技巧的でもない。アート・ファーマーもうまいこと考えたもんだ。なかなか、こういう次元で音楽を作りこめる人は少ない。

カルテットのメンバーそれぞれが、「出過ぎない」ように気を使っている様がみてとれる。リーダーのアート・ファーマーに気を使っているのか。それにしては、アート・ファーマー本人も地味である。

決して派手な音楽ではないのだけれど、そこに、一応盛り上がりのようなものもないわけではなく、良いバランスを保っている。アルバム一枚を通してじっくり聴くのはちょっと辛いかもしれないけれど(時々、間延びしたような雰囲気にもなる)、何かやりながら聴くには悪くない。

アート・ファーマー、自分のリーダーアルバムはこういう地味なラッパ吹いているのが多いんだけど、サイドマンとなると、結構吹きまくっていることもあるんだよな。結構気苦労も多かっただろうな。