今となっては貴重なCouesnon

フリューゲルホルンという楽器をご存知な方は、その名を一度は聞いたことがあるであろうケノン。私は、どうもこういう不遇の楽器が好きなのです。

ケノン、立派ではないか。全然不遇ではないではないか。と思われるかもしれない。ケノンを不遇などと呼ぶのはケシカラン!!と叱責いただくかもしれない。

申し訳ない。ケノンは立派です。ケノンはいい楽器です。でも、中古市場では酷い扱いを受けております。ケノンは、本気の楽器演奏者にはあまり好かれていないような気がします。

無理はありません。ケノンはどうも個体の良し悪しにばらつきがあります。とっても高級な機種(そんなのがあるのかどうか知りませんが)なんかだと、例えばモノポールとかスターモデル(?)なんかだと良い楽器ばかりなのかもしれませんが、大抵中古で出回っているケノンは、あまりいいコンディションではありません。

どちらかといえば、どこかのマーチングバンドで荒く扱われていたような、そういう類いのベコベコに凹んでいるものや、改造がなされているものばかり見かけます。

私の持っているケノンも、そういった類いの「実戦」で使われていたような楽器です。凸凹になっているし、3番抜き差し管にはトリガーが後付けされてます。あろうことか、マウスパイプもレギュラーシャンクのものに交換されております。ケノンなのに、ケノンシャンクではないケノン。これはなんだか気の毒になってしまいます。

しかし、いい音色がするのです。柔らかく、暖かいいい音色がするのです。こういうのはケノンでなくても出るのかもしれませんが、そうでもないかもしれません。

学生の頃、出始めのXOのフリューゲルホルンを持っておりました。社会人になって、ずーっとトランペットを吹かなかった時期があって、もう2度と吹くことは無いだろうと思い、売ってしまいました。XOのフリューゲルも赤ベルにシルバーメッキのなかなか本格的なやつを持ってましたが、あれもなかなかダークな音色が出ましたが、ケノンのような麗しい高音は出なかった。出なかったような、出たような、気がします。記憶が曖昧で全然覚えていないのです。

しかし、ケノンを手にいれてから(いままでケノンのフリューゲルを2台所有しております)フリューゲルの音色が好きになりました。フリューゲルだけ手に提げて、いつかはジャムセッションにでも参加できるようになりたいとすら思います。

ケノンは、上品な感じともちょっと違いますが、高音が柔らかく出すことができます。 XOのやつは高音を吹いたときにトランペットみたいな音色で鳴ったような気がします。いや、もう10数年前に手放したから、正直全然覚えていないのですが。

どこか、頼りない柔らかく優しい音色のケノン、これからも大事に吹いていきたいと思っています。

ケノン、といえば、トムハレルでしょうか。彼は、素晴らしい音楽を奏でます。ああ、トムハレルみたいに吹けるようになりたい。

ええ、ウェスタンスウィングを少々

好きな音楽はカントリーミュージックなのだけれど、Jazzもちょっとだけ聴く。

Jazzといえば、マイルスデイヴィスなんかのハードバップやら、ジョンコルトレーンのようなジャズを連想する方が多いかもしれない。私は、マイルスの50年代のハードバップはまあまあ聴かないわけではないのだけれど、コルトレーンは殆ど聴かない。学生の頃、すこしだけ聴いたりもしたけれど、よくわからなくて飽きてしまった。コルトレーン様に失礼だけれど。

それで、専らオルガンもののジャズばかり聴いていた。謂わゆるソウルジャズなんて呼ばれるやつだ。あとは、レッドガーランドのトリオとか、トムハレルとか、それと、チェットベーカーの晩年のレコードが好きだった。

そういうやつも嫌いではないのだけれど、なんとなくJazzというと暗い音楽が多い。特にチェットベーカーのやつは暗い。ソウルジャズは明るく楽しいのも結構あるけれど。それでも、明るくて、心ウキウキというような類いのレコードは少ない。

そこにきて、カントリーは明るい。歌っている内容はだいたい失恋の歌なのだけれど、明るめの曲調が多い。

正直言って、カントリーの明るさも、ジャズの不思議な魅力も捨て難い。

そこで、色々とレコードを漁っていたら、ウエスタンスィングという音楽に出会った。もう10年ほど前のことである。

ウエスタンスウィングという音楽は、ボブウィルスとテキサスプレーボイズというバンドが有名なのだけれど、40年代ぐらいに流行っていた音楽である。ちょうどジャズもハードバップなんかが出てくる前の、スウィングビッグバンドが流行っていた後半ぐらいか。フィドルやスティールギターなんかのカントリーのバンドの編成に、サックスなんかのジャズの楽器を取り入れて、スウィングジャズの名曲やカントリーの定番曲を演奏するスタイルの音楽だ。

これがまた、カントリー好きにも、ジャズ好きにも心地いい音楽である。ジャズと言っても、50年代以降の小難しいジャズではないから、ビバップ以降のジャズが好きな人には物足りないかもしれないけれど、おしゃれでスウィンギーなコードとリズムで、心ウキウキといったような音楽だ。

それで、ここのところ10年ぐらいはウェスタンスウィングといえばボブウィルス一筋できいてきた。アスリープアットザウィールなんかもちょっと聴いたけれど。

よくよく調べてみるとウェスタンスウィングは比較的新しい録音もあるらしい。先ほど挙げたAsleep at the Wheelもそうなのだけれど、現役で活躍しているバンドが結構いる。有名なところではナッシュビルで活躍しているThe Time Jumpersも大きく分けるとウェスタンスウィングだ。

それで、今夜はTom Morrell & the time -warp tophandsを聴いている。この人たちについては全くよくわからないのだけれど、リーダーの Tom Morrellはスティールギターの名手らしい。ビグスビーのヴィンテージのスティールギターを弾いている。

これがまた、なかなか楽しいアルバムなのだ。すこし、リラックスしてゆっくり音楽を聴きたいときにオススメです。

バッチリ調整から上がってきたFuzzy

先日、Fuzzyさんのペダルスチールを手に入れた話を書いた。少し自分でも見てみたが、色々とガタがきているだけでなく、どういう機構になっているのか、9番目のペダルは何に使うのか、ちっともわからなかったのと、ニーレバーの位置が使いづらかったこともあり、Fuzzy Pedal Steel Guitar Productsに調整をお願いすることにした。

結構な費用はかかってしまったが、ニーレバーを3つ増設してもらい、ニーレバーとペダルの位置をずらすという大手術をした上で、調整してもらい、楽器が出来上がってきた。

この楽器も、新品で買うとなると今となっては$4,500以上するのである。今の日本円になおすと、約65万円!!まあまあ高級楽器である。当時だって新品で40〜50万円ぐらいはしたであろうか。そこそこな高級楽器である。それを新品同様に調整した代金だと思えば、あの結構な費用も仕方ないかと思う。

Fuzzyさんは世界中からきているオーダーの新作楽器製作の忙しい間を縫って、なんとか短期間で調整してくれた。

楽器のセットアップ(Copedent)は現在メインで使っている同じくFuzzyのスチールギターと同じにしてもらった。それに追加して、この楽器にはE9からB6チューニングへの切り替えレバーと、全く使い道がわからないフランクリンペダルが加わっている。

フランクリンペダルはせっかく9本ペダルの楽器だからということで、8本ペダルにするのも勿体無いので残してもらったが、実のところ全く使い方はわからない。まあ、仕方ないので、まずは他の8つのペダルの使い道を解読した後に使い道を勉強しようと思う。

こういう、自分でいじれない楽器については、やはり国産は心配がない。これが輸入品のペダルスチールだったら、修理できる人は探せたとしても、オリジナルのパーツがない。その点、Fuzzyさんはいつでも相談に乗ってくれる。エモンズとかショーバッドのパーツはある程度汎用性もあるので、頑張れば自分で治せなくもないが、パーツの手配を考えると、やはり藤井さんの楽器に勝るものはない。

あと、輸入物の楽器は日本人の体格に合っていないという欠点もある。私自身、輸入物の楽器も持ってはいるのだが、やはりちょっと楽器の高さが高すぎる。あれはあれで乱暴な音がしていい楽器ではあるのだが、普段弾くとなると、ちょっと改造せねばならない。なかなか難しい世界なのである。

それでも、一番の問題は、この楽器をまだ全然習得できていないということだな。

とりあえず、日々スケールの練習と、簡単な練習曲をやっております。早くバンドで弾けるぐらいになりたいなぁ。

Fuzzyさーん!助けてー!

私は、Pedal Steel Guitarという楽器が好きだ。とても好きだ。

好きは好きなのだが、その奏法たるや全然習得できていない。なんせ難しい楽器なのである。難しい代わりに、いろいろなコードを鳴らせたりするので、是非とも奏法を習得したい楽器なのである。

6月にFuzzy Steel Guitar Productsの工房にお邪魔して、一台中古の楽器を購入させていただいた。ユニバーサルチューニングの12弦の楽器である。ニーレバーが縦型も合わせると7本付いているほぼフル装備の楽器である。

この楽器にとても満足している。満足どころか、全然使いこなせていない。B6の部分が全然理解できていない。

そこに来て、もう一台Fuzzyの楽器が手元にやってきた。これについて言えば、そもそもペダルが9つも付いているのに、ニーレバーが4本という変則的なセットアップである。しかも、ニーレバーの位置もよく分からない場所に付いている。

とりあえずチューニングしてみたのだけれど、これがまた、どうなっているのかさっぱりわからない。完全にお手上げである。とりあえず、ニーレバーの位置が使いづらいので、移動したいと思っている。もう少し1番ペダル側に移動したい。

一体、前のオーナーはどうやって使っていたのか。

ちっともわからない。

ちっともわからないので、Fuzzy Steel Guitar Productsにもう一度頭を下げて、この楽器を調整してもらおうかと思っている。縦型のニーレバーとB6用のニーレバーを計3本造設できればベストなのだが、結構高くつくと思われる。

どうしたものか。

Fuzzyの楽器はそのメカニズムだけでなく、音も素晴らしい。大満足であるからこそ、この楽器も弾ける状態に持っていきたい。

藤井様、なんとかお願い申し上げます。

ファンキーなジャズとはまさにこれMorris Nanton

今日は暑い1日だった。このままいけば、真夏は日中45度ぐらいになってしまうのではないかと思うほど暑かった。暑くて暑くて、外を歩くのが苦痛であった。

それにもかかわらず、いや、そのせいもあってか、仕事は遅々として進まず、いろいろな方々から不満を言われ、嫌な1日だった。暑い上に仕事もイマイチ、というのはなかなか疲れる。

仕事帰りにディスクユニオンに寄り、レコードを買って帰ってきた。それもまとめて8枚。ストレスがたまるとついレコードを買ってしまうのは私の悪い癖か。

帰宅して、夕飯を食べながらそれらのレコードを聴いていたが、もちろん全てを聴ききることはできない。家族が寝静まった後、書斎のオーディオのボリュームを下げ、じっくりと聴いている。レコードを聴きながらこれを書いている。

私は、普段カントリーばかりを聴いているのだが、学生時代モダンジャズ研究会に所属していたこともあり(幽霊部員であったが)、ジャズのレコードをきくこともある。時々ある。ジャズのCDは1500枚以上持っているのだが、最近はCDを聴くことはほとんどない。CDを聴くほど気合が入らない。代わりにレコードを聴いている。レコードはなんとなくでも聴くことができる。不思議なもんである。

それで、今はMorris NantonのアルバムSoul Fingersを聴いている。これがまた、聴きやすくていいアルバムである。Prestigeレーベルの7000番台なのだが、聴きやすい。だいたいこの辺りのアルバムはブローイングセッションで、ジャムセッション垂れ流しのレコードが散見されるのであるが、このアルバムは比較的作りこまれている。Prestigeにホレスシルバーが移籍して、スタンダードを弾きまくっているというような雰囲気のアルバムである(もちろんピアノはホレスシルバーではなくモリスナントンであるが)。

このなんの変哲もないようなアルバムが、今日の私には丁度良い。アレンジはゴリゴリにされているし、どこかイージーリスニングのような感じすらしてしまうのだが、そこのところをMorris Nantonのファンキーなプレーが縦横無尽に駆け巡り面白くしている。こういうピアノアルバムはあまり多くない。ボビーティモンズも良いのだが、ちょっと暑苦しすぎるきらいがある。そこのところ、この人はすこしさっぱりしている。さっぱりしているのだが、めちゃくちゃファンキーなアルバムに仕上がっている。

良いなあ、こいうアルバム。

ずっと調子の悪かったLeslieがなんとなくなおった

ハモンドB3オルガンというのは、オルガン本体だけでは全く音が出なく、必ずLeslieスピーカーがセットでなければいけない。そもそもLeslieにつなぐ以外の音を出す方法がない。

厄介なもので、古いB3はその型式によって外部につなぐソケットも違い、現行機種のLeslieにつなぐためには専用のケーブルを繋がなければならないらしい。これは、人に聞いた話なので本当かどうかはわからない。なんせ、今まで本物のB3をじっくり見たのは、自宅にある一台だけなのだから。

私のB3は、ひとから借りているのだけれど、まあ、馬鹿でかくて重い。ろくに演奏できないのにこれを自宅に置いておこうというのは、我ながら酔狂というか、ちょっと困ったもんである。その上、内部の構造もよく知らないので、壊れてしまったら直しようがない。だから、時々オイルを注したりして、気遣ってはいる。

しかしながら、やっぱり年代物なので、いろいろなところが調子悪くなってくる。なんせ、倉庫に10年以上放って置かれていた楽器なので、いろいろな不具合が出てきても仕方ない。

私の家に初めて入れたときには、果たして音がきちんと出るのか、はたまた巨大なゴミを預かってしまったかもわからないでいた。ためしにスタートモーターを回してみると、なんとか回るには回ったのだが、内部の歯車がキシキシいって、モーターの音がグワングワンいってしまい、楽器というよりも耕運機のようなおとが出ていた。鍵盤の接触も悪かったらしく、ところどころに音の出ない鍵盤すらあった。

しかし、私は運が良かったのか、オイルを一通り注して、鍵盤を何度も押しているうちに、きちんと440Hzで音が出るようになった。冬場には調子が悪くなったりはするが、なんとなくこの楽器との付き合い方もわかってきた。どの鍵盤もドローバーもなんとなくきちんと音が出るように、機能するようになった。

それでも、いままでずうっと気になっていることがあった。

それはLeslieスピーカーの上の方のスピーカーホーンの高速回転が回らないことであった。手元のスイッチでTremoloにしても、上だけ止まってしまう。ゆっくり回転は回るのだが早くすると回らない。これには困った。

それはそれで仕方ないのかとずっと思っていたのだけれど、今回Leslieの裏蓋を開けて、ゴミを取り除いたら、なんとなく高速回転も回るようになった。おそらく、完全に治ったわけではないので回転速度の切り替えにタイムラグがあるのだが、それでもずいぶんマシになった。回らなかったときは精神衛生上とても良くなかったのだが、ひとまず回るようになって、安心した。

良かった、良かった。あとは練習するのみである。

いつかは、この楽器で一曲ぐらいまともに弾けるようになりたいもんだな。

レコードのカートリッジを替えた

レコードを何枚も持っていて、時間を見つけて聴いているのだが、なかなかじっくりと聴く時間が作れないでいる。私のような歳の人間がレコードをじっくりと聴くほど時間が有り余っているというのも問題なのだろうが(私は今40代前半なので)、趣味は専ら音楽なのでできればゆっくりと音楽を聴きたいという気持ちはある。

家族には申し訳ないのだが、休みの日には一人ゆっくりと時間を過ごしていることが多いのだが、そういうときに限って音楽をかけようという気持ちがあまり沸いてこない。不思議なものである。むしろ、人が家に来ているときなど、無性にレコードを聴きたくなるのだ。

まあ、それはそれとして、レコードである。

私が学生の頃、清水の舞台から飛び降りるくらいの気持ちでステレオのセットを買ったのだ。それから20年間で少しずつアンプやスピーカーをアップデイトしてきて、今は身分不相応かもしれないが、真空管アンプをJBLにつないで音楽を聴ける環境を手にいれた。それほど高いセットではないけれど、カントリー、ジャズ、ロック、クラシック少々を聴く分にはこれで十分である。

特に、Jazzを聴く人にはオーディオにお金をかける人が多くて、何百万円、ときには何千万円と音響設備にかけていたりする。そういう方々も羨ましくは思うけれど、私はどちらかというと音楽を気分良く聴ければそれで良いので、そこまでお金をかけようとは思っていない。むしろ、気軽に扱えて、そこそこ良い音質で聴けるいまのステレオセットに勝るものはないとすら思っている。

レコードのカートリッジは学生時代からずっとシュアーのM44Gを使っていたのだが、気がついたら生産終了になってしまっていた。生産終了になってしまってからは、ディスクユニオンオリジナルの、通称「ユニオン針」とか「赤針」というのに針だけ交換して使っていたのだが、先日ディスクユニオンに行ったところ、その赤針もなくなっていた。

それで、仕方なく、レコードのカートリッジを新調した。

極力お金はかけたくなかったのだが、せっかくだからそこそこの音質で聴きたいと思い、御茶ノ水のオーディオユニオンに行ってきた。その中で、丁度良い値段帯で、出力が大きく(音に迫力があって)、そこそこ音質も良いという評判のChudenのカートリッジを買ってきた。MG-3675というモデルである。

オーディオユニオンの人によると、丸針の方が元気な音はするらしいが、楕円針の方がきめ細さも持ち合わせているとのことであったので、一応クラシックも聴いたりする手前楕円針のMG-3675の方にした。

結果、今の所何の不満もない。音圧/迫力はM44Gと同じぐらいあるし、サ行が歪んだりしないので、むしろこっちの方がはじめっから普通に使えて良い気もする。

早速、先日購入したビルエバンスのワルツフォーデビーなんかを聴いてみたが、シンバルの音もきれいに出てくれるし、うちのステレオセットのパフォーマンス的には十分すぎるぐらいであった。

今はこのカートリッジで、バーニーケッセルのモントルーでのライブ盤を聴いているが、ギターの音が前に出てくる感じがして、ベースもしっかり鳴るし、悪くない。これで2万円しないぐらいで買えるので、レコード針としてはリーズナブルな方である。

ひとまず大満足である。

Waltz for DebbyをLPで

このアルバムは、いままで何枚買っただろうか。CDで少なくとも3枚は買ってきた。いや、それ以上かもしれない。LPで買うのは初めて。

Bill Evansは普段それほど聴かないけれど、Waltz for Debbyほどの名盤となるとさすがに今まで随分と聴いてきた気がする。ジャズだとか何だとかは関係なしに、これほど完成されたアルバムは他にないと思う。それほど、何度でも繰り返し聴ける作品だ。私が今更言うようなことではないけれど。

一昨日、自宅のピアノを調律してもらい、調律師さんが帰った後にMy foolish heartのコードをなぞった、Bbで。このアルバムでビルエバンスは同曲をAで演奏している。一曲目でミ、ミと入ってくる。

私は、このMy foolish heartという曲が好きだ。と言っても、ビルエバンスのこのアルバムぐらいしか聴いたことはないかもしれない。いや、たしかチェットベーカーが歌うレコードも持っていたかもしれない。よく覚えていない。まあ、仕方ないか。それぐらいこのレコードでの印象が強いから。

今日、帰宅し、早速このレコードに針をおとしてみた。美しい、My foolish heartが流れてきた。それだけで、私は満足だった。

でも、このレコード、オリジナルと曲順が違うのよ。そこさえ、何とかしてくれたら完璧なのだけれど。やっぱり、曲順きになる方は、下記のが良いでしょう。

ピアノの神様から預かっているベヒシュタイン

恥ずかしい話なのだが、私は鍵盤楽器をたくさん手元に置いているのだが、ほとんど鍵盤楽器が弾けない。このブログでも何度もピアノやエレピ、オルガンなんかについて書いているので、時々バンドのキーボード募集のお誘いを頂いたりするのだが、そういうことは全くできない。自分が歌を歌うときに、和音を鳴らして伴奏することぐらいしかできない。

できないできないばかりで恥ずかしいのだが、それが事実なのだから仕方ない。

しかしながら、ピアノという楽器が好きだ。この楽器さえあれば、世界中の音楽を奏でることができるだけでなく(演奏の腕前の問題はあるが)、音楽を教えてくれさえする。そして私は、あまたあるピアノの中でも、自宅にあるベヒシュタインの古いグランドピアノが特に気に入っている。この楽器は、私が拙い腕で鍵盤に触れても、優しく鳴ってくれる。

このベヒシュタインは、今より遥か120年前に作られたものである。前のオーナーから1896年製と聞いている。鉄骨の構造や、ロゴマーク、製造番号その他色々のディテールから見ても、それは本当で、たしかに120年前に造られたものである。もちろん、新品のピアノとは違い、いろいろなところにガタはきている。弦はおそらく一度は張り替えられており、下から2オクターブ目のミの弦は、そのあともう一度切れたらしく、急ごしらえで巻いたゲージがちぐはぐの弦が張ってある。そのため、このミはどのように調律してもうなってしまう。また、低音弦も何本かはもう既に寿命がきており、うまく取り扱わなければジンジンとなってしまう。ピアノの脚は、もう随分前に交換されている。

もう一つ、これは決定的な致命傷であるが、フレーム(鉄骨)に小さなクラックが入ってしまっている。この時代のベヒシュタインに特有の、フレームのクラックだ。おそらく、最後に弦を張り替えた際にこのヒビが入ってしまったのだろう。

けれども、そのような箇所を考慮しても、この楽器が奏でる美しく儚い音色を聴くと、そんなことはどうでもよくなる。私はピアニストではないから、それらの古傷をいたわりながら演奏すれば良いのである。ピアノに寄り添い、無理をさせなければ、まだまだこのピアノは美しい音を奏でてくれる。

昨日、この楽器を調律してもらった。

440でお願いします。というと、調律師さんは「わかったよ、確かにこの楽器の時代を考えると442は高すぎるかもね」とつぶやいた。

たしか、この時代は436とかでチューニングしたりしてたはずです。などと、知ったようなことを私はつい調律師さんに言ってしまった。インターナショナルピッチが440になったのは1939年頃のことだから、おそらく本当にこのピアノができた時代は436ぐらいで調律していただろう。もしかすると、もっと低かったかもしれない。たった2ヘルツだけれど、私はこのピアノに負担をかけたくないのだ。私の家で、ゆっくりとすれば良い。

私が、ピアニストではないことが、はたしてこのピアノにとって幸運なことなのか、不運なことなのかはわからないけれど、楽器なのだからしっかり鳴らせる人が手元に置いていた方が良いに決まっている。けれども、たまたま私の手元にあるからこそ、このピアノは延命しているのだとも言える。そして、私の家族でピアノを演奏する人は他にいない。私が歌を歌うとき以外には、時々思い出したかのように、娘や妻が鍵盤に触れるぐらいで、しっかりとした音楽を奏でられる人はうちにはいない。時々、ピアノを演奏できる友人が遊びに来た際に、弾くぐらい。

調律が終わって、試しに少し鳴らしてみたら、調律前より音色がキリリとしていた。キラキラしましたね、このベヒシュタイン。と私が言うと、調律師さんは懐かしそうにベヒシュタインをさらりと奏で、「ああ、佐々木さんとこのベヒシュタインにまた会えたなあ」とつぶやいて、世間話を(ピアノについてなのだが)して帰った。

帰られた後に、ピアノと二人きりになった私はMy foolish heartのコードを追いかけた。ゆっくりと日が暮れていき、妻と娘が帰ってきて

調律師さん帰ったの?どうだった?

聞くので、「うん。とても良い音になったよ」と答えた。

Myクーバツのパツラ

最近はステーホームやらなんやらで、運動不足になることが多い。

私は、スポーツを嗜まないので、もっぱら散歩か、腹筋をするぐらいしか体を動かしていないのだけれど、インナーマッスルを鍛えるのも必要なのではないかと思い、最近気まぐれにトランペットを吹いている。

もっとも、吹いている、と言っても一昨日から始めたのだが。トランペットというのは体のあらゆるところを使って吹くので、結構体力を消耗する。まあ、肺活量を中心にして、口の周りの筋肉を使うくらいなのだけれど、それでも、久しぶりに吹いてみると体力を使う。

トランペットは健康に良い。

健康に良いものが正義というわけでもないのだろうけれど、これがなかなか運動の代わりになってくれるので、帰宅してからこっそりと吹いている。こっそりと吹いても、かなり大きな音がしてしまうのがトランペットという楽器の悲しいところなのだけれど、できるだけ、近所迷惑にならない程度に、控えめに吹いていては、唇に負担がかかってすぐにばててしまう。だからと言って、大きな音で吹いていては、近所からすぐに苦情が来てしまうであろう。

困ったもんだ。

トランペットの困ったことのもう一つは、スランプが多いことである。トランペットを練習していると、すぐにスランプが来てしまう。これは、きっと体のどこかにアンバランスが生じ、そこばかりに負担がかかっているからであろうが、三日練習したら、必ずと言って良いほどスランプが訪れる。

スランプを解消する方法は色々とあるのだろうが、トランペットを吹く人は、なぜかその原因は楽器なのではないだろうかと考えてしまいがちだ。俺の体は健康なのに、思うように音が出ないのは、楽器がいけないからだ。という思考回路である。

これは、ラッパ吹き全てが全てそういうわけではないのだとは思うが、バンドやら、ジャムセッションやらでトランペット吹きが3人集まると、必ず楽器の話で盛り上がる。やれ、ここをこう変えたら吹きやすくなった、バテづらくなった。やれこの楽器を試したら、ハイノートが出るようになっただのと演奏も忘れて話し込んでしまう。

これは、サックス吹きもそうなのかと思っていたが、どうやらラッパ吹きの方がそういう傾向が大いにあるようだ。(統計をとったわけではないが)

そこで、私も1年ほど前にトランペット本体を買い替えたという実績がある。

1年ほど前に、久しぶりに楽器を吹いてみたら、ちっとも音が出なかったのだ。困った。困ったので、すぐに楽器を買いに行った。ヴィンセント・バックの楽器である。

帰ってきて、吹いてみたら、するすると音が出た。

これだから、楽器というものは、困るのである。これで、買ってきてやっぱり音が出なかった、というのであれば、やっぱり悪いのは自分かということで落ち着く。ところがトランペットについては、バックにしてみたところ、音がきちんと鳴るようになったのだ。

今考えてみると。これは、まったく楽器の影響ではないというわけでなく、確かにバックの楽器は吹いた際の独特の抵抗感のおかげで吹きやすいのだけれど、まあ、気分の方が大きい。気分9割9分といったところだ。

けれど、さすがはトランペットの名器、ヴィンセント・バックである。これさえ吹いていたら間違いない。音も、悪いわけがないし(もし悪いのであれば、吹いている自分が悪い)、音程も良い(もし悪ければ、吹いている自分が悪い)。

ああ、どうして私は始めっからバックのトランペットを買わなかったのだろう。