もう一つのハモンド Hammond 44 Hyper PRO-44HP

先日、仕事の関係で行った会社で、鍵盤ハーモニカのプロの演奏のビデオが流れていて、つい見入ってしまった。鍵盤ハーモニカのプロというのがいるということは、どこかで耳にしたことはあったけれども、実際に映像でその姿を見たのは初めてであった。

まず、その超絶技巧(循環呼吸とか)にも驚いたが、何よりも鍵盤ハーモニカの聴き慣れた音色であるにもかかわらず、その音色がカッコイイというのが驚きであった。

私は、鍵盤ハーモニカは小学校で触ったきり、ほとんど手にしたことはなかった。なんだかフニャフニャした音色があまり得意ではなかったし(むしろ苦手であったし)、鍵盤ハーモニカよりもカッコ良い楽器はこの世の中にたくさんあるので、そういう楽器にしか興味はなかった。そういえば、小学校の頃も鍵盤ハーモニカは苦手であった。なんだかカッコ悪い楽器だと思っていたのと、鍵盤に弱かったため敬遠していた。同級生に鍵盤楽器が上手いやつがいて、鍵盤楽器はそいつの得意分野として私はかかわらないでいたと言ったほうが正しいかもしれない。

また、小学校の学芸会で必ず劇ではなく器楽の方に回されて(私は小心者であったので劇は苦手であった)、吹きたくもない音楽を縦笛や、鍵盤ハーモニカで弾かされるのが嫌であった。たしか小学校六年生の時だったか、劇の最中に鍵盤ハーモニカを持って、ステップのようなものを踏みながら「茶色の小瓶」を吹かされた。あれなんぞは恥ずかしかった。鍵盤ハーモニカというクールでない楽器を持たされて、その下手な演奏を人前で得意になってやるというのが嫌であった。

そんなことだから、小学校を卒業してからはなるべく鍵盤ハーモニカに触れないようにしていた。学生時代に所属していたモダンジャズ研究会でピアノの友人が鍵盤ハーモニカを持ち出して吹いたりしていたが、なんだか間抜けなその音色が好きでなかった。

それで、40歳を超えた今、いきなり鍵盤ハーモニカに再会したのである。それも、今回は鍵盤ハーモニカがカッコイイのである。これには参った。鈴木のメロディオンである。しまいにはなんだか、メロディオンという響きもカッコよく聴こえてきた。それほどに、鍵盤ハーモニカのプロの演奏がカッコよかったのである。

それで、いてもたってもいられなくなり、早速購入した。

私は、弾けもしない楽器でも、カッコイイと思うとすぐに影響され欲しくなってしまうという悪い癖がある。一応自制心も働いていて、どうしても演奏できなさそうなものと、長続きしなそうなもの、とても高価なもの(グランドピアノは持っているが)については極力買わないようにはしている。それでも、今回の鍵盤ハーモニカはやはり抑えきれなかった。買ってしまった。

それも、Hammond 44 Hyper PRO-44HPという、ずいぶん高級機種を買ってしまった。このハモンドの鍵盤ハーモニカは、エレアコ鍵盤ハーモニカで、アンプにつなぐことができ、かつ44鍵というデラックス仕様である。すでに、生産終了となっており、今はHammond PRO-44HPv2という後継機種が出ているのだが、私は御茶ノ水のハーモニカのメッカ谷口楽器で展示品の最後の一台を購入した。現行機種のほうが、色々とアップデートはあるのだろうが、その辺はよく分からない。もしかすると、マイクのフィードバック等が抑えられたり、音色も変わっているのかもしれないが、そういうのはさしあたって必要なく、私は、44鍵の鍵盤ハーモニカというのが欲しかったのだ。

このハモンドの鍵盤ハーモニカは、鈴木楽器のメロディオンの工場で作られている。さすが、国産鍵盤ハーモニカの始祖 鈴木楽器、良いものを作る。

試しに、「思い出の夏」の楽譜を引っ張ってきて、拙いながらも両手を駆使し、音符を辿ってみた。息継ぎが大変で、全然曲としては成り立たないぐらいに下手ではあるが、なんとかメロディーを吹くことはできた。この「思い出の夏」がこの楽器の音色によく似合うのである。なんだか、切なく哀愁漂うメロディーが向いているらしい。

なんとも言えぬ楽しさがある!

これで、借り物のHammond B3と並べて、うちには2台目のハモンドがおさまった。