BACHのトランペットのピストンボタンをターコイズにした

トランペットという楽器は、それだけで目立つ楽器なのだけれど、そのせいか、トランペッターの多くは目立ちたがり屋の人が多い気がする。

例えば、ディジーガレスピー。彼なんかは、アップベルの楽器を吹いている。ベルが上向きに曲がっていても、いなくても出てくる音そのものは変わらないのだろうけれど、目立つという理由だけでああいう楽器を吹いているのだろう。

もちろん、世の中には寡黙なトランペッターという方々も存在するのかもしれない。純粋に、トランペットの音が好きで、目立つ目立たないに関わらず吹いている人たちも、ひょっとしたら世の中に存在するのかもしれない。

しかしながら、私の数少ないサンプルの統計の結果、トランペッターは目立ちたがりと相場は決まっている。

私は、学生時代にモダンジャズ研究会という、サークルに所属していた。「研究会」と名がつくので、もっぱら研究に明け暮れている根暗な方々が多そうな印象を持たれるかもしれないけれど、ジャズ研の方々はそれはそれは個性的な方々が多かった。特に、ジャズ研に入部する管楽器の方々は、高校の吹奏楽上がりの方が多くて、吹奏楽部に入部すれば良いものを、ジャズ研に入部するわけだから、「目立ちたい」という想いを胸に来られた方が多かった。

例えば、吹奏楽部では、トランペットパートは何人かいるトランペットパートの中の一人であるのに対し、ジャズのコンボでは大抵トランペッターは一人いれば十分である。だから、目立つ。目立つのが嫌ならば、コンボで吹こうなどとは思わないだろう。吹奏楽上がりではない管楽器パートの方も多くいた。彼らは、大学に入学してから管楽器を習得しようという腹の方々である。私もそうだった。いわゆる「大学デビュー」組である。

吹奏楽上がりか、大学デビューかは楽器を見れば分かった。吹奏楽を経験してきたトランペッターは、大抵ヤマハのゼノか、バックのストラディバリウスを使っていた。それも必ず、決まって銀メッキの楽器を。ラッカーのバックを吹いている後輩も一人いたけれど、彼以外は皆、銀メッキの楽器だった。

それに対して、大学デビュー組はやけに目立つ楽器を使っていた。キングだの、コーンだの、そういった吹奏楽上がりはまず使わないであろう楽器だった。かくいう私も他聞にもれず、黒ラッカーのマーティンコミッティーを使っていた。その、黒ラッカーの楽器は持っているだけで目立った。持っているだけで上手そうに見えてしまった。

結局、目立ちたい気持ちだけが先走り、練習をちっともせずに学生時代は終わった。私は、下手なのに目立つのが嫌になってしまい、結局大学5年の春にその美しい楽器を手放してしまった。手放して、代わりに銀メッキのベッソンを買った。今でも、その美しい楽器を二束三文で手放してしまったことを後悔している。

大学を5年半かかりなんとか卒業させてもらい、そのあとしばらくトランペットを吹くことはなかった。楽器から離れてしまった。3年に一度ぐらい、思い出したかのように楽器を引っ張り出してきたり、新しい楽器を買ったりして、トランペットを再開しようとするが、挫折する。そんなことを何度か繰り返したりした。そんなのだから、トランペットはちっとも上達しないまま今日に至っている。

このコロナの騒ぎのおかげで、家にいる時間が多くなり、久しぶりにトランペットを手にしてみた。初めは、自宅の押入れにしまっているMartinの Committee Deluxeを吹いていたのだけれど、ちっとも上達しない。

そこで、基本に戻ろうということで、バックのストラディバリウスの中古を買ってきた。それも、シルバーメッキ、のような外見のニッケルメッキの1980年製のものを買ってきた。ニッケル鍍金というのは、一時期流行ったらしく、時々出てくるのだそうだけれど、もちろんバックのオリジナルではなく、後がけのメッキである。赤ベルのニッケル鍍金だから、かなり吹きづらそうに聞こえるけれど、さすがヴィンセント・バックの設計した楽器、吹きやすい。

40にして、初めて「普通の」トランペットを入手した。見た目は銀メッキの楽器と一緒だから、まるで吹奏楽上がりのトランペッターのようである。見た目だけは品行方正になった。

しかしながら、なんともその優等生な見た目は、心がウキウキしない。楽器は良い楽器だから、吹いている分には何の文句もないのだけれど、元々が目立ちたがり屋なのだろう。他の人と同じ楽器は嫌なのだ。

そこで、ピストンボタンをターコイズのものに交換した。

やれやれ、見た目ばっかり目立ちたがるのは、私の悪い癖なのだ。

交換してみたら、案外カッコよく、安心した。音色は全く変わらないのだけれど、ターコイズブルーのフィンガーボタンはなかなか美しく、銀色の楽器に映える。こういう、小さなところから練習のモチベーションを上げていくのだ。

かつて、ヴィンセント・バックのオリジナルパーツでターコイズのボタンというのが存在していたのだけれど、今はもう廃盤になってしまったらしい。どこを探してもなかった。仕方がないので、インターネットを探していたら、自分の好きな石を選んでボタンをつくってくれる店があったので、そこから購入した。バックは、いろいろなカスタムパーツが存在するから、嬉しい。

楽器の見た目はかっこよくなったわけだから、あとは練習をして、自分自身がかっこよくなるだけである。

「BACHのトランペットのピストンボタンをターコイズにした」への1件のフィードバック

  1. ターコイズ。
    実は、僕の誕生石。
    僕も、自分のラッパのピストン・ボタンをこれに取り替えよう、と思ってきましたが、
    なぜかいまだノーマルのままです。
    僕のラッパはヤマハ。
    「8335」の『G』(ゴールドブラスでラッカー、2本支柱)、『RS』(イエローブラスで銀メッキ、リバース、1本支柱)です。
    双子の兄弟のような2本ですが、吹き心地や音はずいぶん違います。とすると、双子は双子でも、1卵生ではなく、2卵生双生児かな?(たとえがあまりよくなかったですか?)。
    プロやマニアのかたのように、延べ座や台座を外して、バランスをみながらつけ直すような改造は、恐ろしくて僕にはできそうもありません。
    しかしながら、ピストン・ボタンならなんとか、と思ってはいるのですが…。なぜか、思い切れない自分がいるのです。
    ターコイズがいいな、と思いながら、伊万里焼のものにも惹かれるものがあり、あれだったら、これだったら、それだったら、と想像しているだけでも悩ましくて頭が痛くなりそう。
    バックのストラッドは、自分の楽器としては持ったことがありません。いずれは手に入れたいと思っています。ヤマハの8335とバックのストラッドと言えば、定番中の定番のようなモデルですが、想像している以上に違いがあるのかしら。
    それこそ、以前書かれていた“哲学”の違いが感じられるのでしょうね。

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