じっくり聴けるアルバムは多くないけれど、素晴らしい音楽家 Chet Atkins

カントリー音楽を聴き始めてから随分経つけれど、Chet Atkinsを好きになったのは聴き始めたからずっと経ってからだった。

そもそも、チェットアトキンスは夥しい数のアルバムを出していて、まず初めにどれを聴けば良いかよく分からない。今でこそカントリーミュージックのディスクガイドのようなものも何冊か出ているけれども、それは、ここ数年でカントリーミュージックがある程度再評価されてきたおかげかもしれないし、ひょっとしたら、私の知らないところでカントリーがブームになっているのかもしれない(いや、それはないか)。かつては、そんな便利なものは無かった。

とにかく、何の手引きもないところで、ギターのインストロメンタルのアルバムを片っ端から聴くというのはなかなか大変な作業だ。その上、誤解を恐れずにいうと、Chet Atkinsの脂がのっていた頃のアルバムで、一枚じっくり聴きこめるような名盤は何枚あるだろう?RCA時代から、たくさんのヒット曲はあるけれど、どちらかと言うとラジオで聴いたり、何かのBGMで聞く程度で、自宅のステレオでじっくりアルバムを聴くような類いの音楽ではないのかもしれない。

けれども、私は、Chet Atkinsの音楽がとても好きで、手の届かない憧れのギタリストでもある。それは、彼が凄いテクニシャンというだけでなく、彼の音楽がうるさすぎず、テクニックをそれほどひけらかさないところに好感を持っているのかもしれない。そして、何よりも、独特の懐かしさと豊かさを彼の音楽から感じるのだ。

それでは、チェットアトキンスをいざ聴こうというときにどのアルバムから聴けば良いだろう。

いきなりデュエット盤を推薦するのも恐縮なのだけれど、Les Paulとの共演盤「Chester Lester」を私は推したい。このアルバムで、チェットアトキンスとレスポールはとてもリラックスしたムードで、かつかなり高度なテクニックを駆使してギターインストを繰り広げている。

ギターインストといえば、どうも弾きまくりのアルバムが多くて、聴いていると疲れてしまうのだ。このアルバムも弾きまくりには違いはないのだけれど、そういう疲れのようなものは不思議と感じさせない。何だかChet AtkinsとLes Paulの二人がデュエットを楽しんでいるかのようで聴いているこっちも力まずにいることができる。(当の本人たちは、一生懸命やっているのだろうけれど)

そういう意味で、このアルバムはチェットアトキンスの入門盤に丁度良い。そして、それだけでなく、このアルバムの曲はどれもがアメリカ音楽のスタンダード曲ぞろいだというのも良い。どこかで聞いたことのあるメロディーをギターの名手二人が弾くんだから悪いわけがない。

チェットアトキンスの名盤は少ないような気がすると書いたけれど、彼のレコードについて語るべきことはたくさんあって、語りきれないかもしれない。たとえ、それが所謂「名盤」と呼べるようなアルバムではなかったとしても、ギタリストだけでなく、多くの音楽好きにとってたくさんの発見があるレコードばかりだからだ。

まあ、とりあえず、持っている人も、持っていない人も、聴いてみてください。「Chester Lester」

 

久しぶりにアルバム1枚通して聴いた Gershwin, Shavers and Strings

Charlie Shaversという名トランペッターについて、詳しいことはよく知らないけれど、とにかくトランペットが上手くて、音も煌びやかな音からしっとり聴かせる音色まで的確に使い分ける凄いやつだ。

私は、ずっとこのCharlie Shaversが苦手だった。どうも上手すぎるので、癪にさわるというか、なんというか。世の中にこんなに自在に楽器を弾けるやつがいるというのがどうも受け入れられなかった。

しかし、先日、ちょっとした気まぐれから、この「Gershwin, Shavers and Strings」というアルバムを買ってきて、聴いたところ、やっぱり良いものは良いのだという当たり前のことを再確認した。

どっぷりとジャズを聴こうと思うと、このアルバムは肩透かしを食う。なぜなら、ここにあるのはジャズというよりもムード音楽だからなのだ。ムード音楽、と聞くと多くの人は、「じゃあ、それならやめよう。時間の無駄だ」と思ってしまうかもしれないけれど、ここまで完成度の高いムード音楽を聴いてみると、心を奪われてしまう。

ガーシュウィンの曲集にちなんで、イントロが「ラプソディーインブルー」の引用だったりして(それも、何曲もそのパターン)どうもなんとなく胡散臭いのだけれど、その怪しさも含めて、遊び心があるムード音楽に仕上がっている。ジャズの要素が全くないかというと、そんなこともなくて、メロディーをフェイクしたり、アドリブソロがちょっとだけ入っていたりして、それはそれでCharlie Shaversのジャズ魂も確認できるのだけれど、そういう難しいことは抜きにして、ジャズが苦手な方にも楽しんでもらえそうな内容に仕上がっている。

トランペットもののムード音楽といえばニニ・ロッソなんかを連想してしまいそうな感じもするのだけれど、ああいうヨーロッパ系の(ニニ・ロッソがヨーロッパなのかどうかは知らないけれど)ムード音楽とは一線を画す、古き良きアメリカ音楽に仕上がっているのもこれはこれで貴重だ。

Charlie Shaversの他のアルバムと違うところは、彼がテクニックをこれでもかとひけらかさないところ。それでいて、完璧なコントロールのもと危なげなくトランペットを吹ききっていて、聞き惚れてしまった。

このところ、アルバム一枚をゆっくり聴いたことなど久しくなかったけれど、このアルバムは、最初から最後まで通して聴いてしまった。