シャルル・アズナブールとクレイトン・ハミルトン

シャルル・アズナブールを初めて聴いたのは、大学一年生のときだったような気がする。しっかりと覚えていないので、どうだったかは忘れたが、大学一年生でフランス語を選択していて、とても成績が悪かった。あまりにも成績が悪くて、フランス語の時間はほとんど顔を出していなかった。

それでも、フランス語ぐらいできた方が便利だとは思っていたので、いつかはしっかり勉強しなければいけないだろうと思っていた。その、いつか、はいつまでも来ることがなく、今でもフランス語はちっともわからない。わからないけれど、シャンソンをたまに聴いたりしている。もちろん、歌詞の内容はちっともわからない。わからないけれど、なんとなく、良いことを歌っているのだろうと思って聴いている。

そもそも、日本語の歌だって、歌詞カードなんていう便利なものがなければ、何を歌っているのかは、わかるようなわからないような感じである。それでも、ようは足りている。歌詞はわからなくても、良い曲は良い。それで十分だ。

それで、アズナブールである。

大学時代に買った彼のレコードには「ジャムセッションのために」という曲が入っていて、私は、その歌が大好きで、何度も繰り返し聴いた。タララララ、ターッタッタ、タララララ、というスキャットから始まるこの曲は、詳しい歌詞はわからないけれど、街で行なわれているジャムセッションを聴きに行くのが好きだとか、なんだとか、そういう歌だと思って聴いている。

ジャムセッションって、私も何度か参加したことはあるけれど、ジャズのジャムセッションの場合、結構弾けるような人で無いとおいそれと参加できない。私は、ちっとも弾けないから、行くたびに惨敗であった。アズナブールは、この歌の中で、「私はミュージシャンじゃないから」と歌っている。アズナブールほどの名手でもジャムセッションに参加しないのか、いわんや私のようなヘッタッピなぞ、なぜ参加してしまったのだろう。

しかし、ジャムセッションは楽しい。ジャムセッションに参加すると、演奏者の真っ只中で音楽を聴くことができる。一番リアルに音楽を聴くことができるのが、素晴らしく楽しい。

今日、御茶ノ水のディスクユニオンで買ってきた、アズナブールとクレイトン・ハミルトンオーケストラの共演作でもこの「ジャムセッションのために」が入っている。ビッグバンドでこの曲を聴けるのは嬉しい。裏ジャケに、フェンダーローズが写っているので、それも気になって買ってきた。

アズナブールとフェンダーローズ、合わなそうで、案外合っている。とは言っても、一曲でしか使っていなそうだけれど、アズナブールは歌うときに突っ立ってマイクを持って歌うイメージだけれど、若い頃はピアノ弾き語りもしていたようだ。彼のピアノ弾き語りも聴いてみたい。きっと、ピアノもそつなくこなすのだろう。アズナブールがローズで弾き語りをやったりしたらさぞカッコ良いだろうな。

先日、仕事でお会いしたピアニストの方が、自分の師匠はもともとアズナブールの専属ピアニストをしていたという話をされていた。後日、その方は丁寧にも「師匠」がミシェル・ルグランを演奏したCDを送ってくれた。

それが、なかなか美しい曲集で、雨傘のピアノソロ版が入っていた。

アズナブールもルグランも私は大好きなので、嬉しくなってたくさん話をさせていただいた。とても気さくで素敵なピアニストだった。いつか、その「師匠」がアズナブールの伴奏をしているレコードも聴いてみたい。

今夜聴いているCDでは、別の方がピアノを弾いているようだけれど、ゲストでジャッキーテラソンがピアノも弾いてアレンジもしており、専属の伴奏ピアニストよりも、ジャッキーテラソンのほうが目立っている。ローズを弾いているのは専属のピアニストの方みたいだけれど、ジャッキーテラソンも、わるくない。

アズナブールには、生前に全曲ローズで弾き語りのアルバムを作って欲しかった。あ、いや、まてよ、そしたらギル・スコット・ヘロンみたいになってしまってアズナブールらしさがなくなってしまうかも。