各トラックの演奏時間が短いハードバップの名盤 Jimmy Smith 「Crazy! Baby」

医者に通っているのだが、病院というのはずいぶん待たされる。診察までにゆうに45分は待たされる。診察の予約時間の10分前ぐらいまでには受付手続きをしに行かなければならないので、必然的に1時間ぐらいは待たされる。

仕方がないので、本を読んだりして待っているのだが、いつ呼ばれるかもわからないので、なかなか本にも集中できない。そもそも医者の待合室というのはどうも落ち着かない。あれじゃあ、いかがわしい店の待合所にいるのと変わらないんじゃないか。なんとか改善して欲しいところである。

もとより私は待ったり、長時間おとなしく座っているというのが苦手である。クラシックのコンサートなどで、静かに座って聞いているのも苦手だが、おとなしく待つ、という時間はもっと苦手だ。ロックのコンサートでさえ、なんだか立たされているのが耐えられなくて、よく途中で抜け出す。ジャズのライブなんかも狭い店が多いので、狭い席に座っているというのが苦手だ。満員電車はいうまでもなく、ありゃ誰だって苦手だろう。

そういう、せっかちな私は、 小説なんかも長いやつは苦手である。おのずから短編ばかりを読んでいる。新書なんかも、一冊読み通せるかどうかの瀬戸際である。とにかく短いに限る。まあ、短ければなんでもいいっていうわけではないけれど。

川端康成の掌編小説を集めた文庫「掌の小説」というのがある。長くても10ページ短いやつは2ページ(原稿用紙5枚ぐらいか)ぐらいの、優れた掌編小説が100編以上収められているのだが、あれなんかも読み通せるやつと、途中で投げ出してしまうやつがあるくらいだ。

3ヶ月ぐらい前にちくま新書だったかの「カント入門」という、一見お手軽にカントの哲学を勉強できそうな本に挑戦したが、敗れた。最後まで一応字は読んだが、全く頭に入らなかった。あれなんかも、落ち着いてじっくりゆっくり読み進めて、わからないところは調べながらやっていけばある程度はカントの哲学に入門できたのかもしれないが、私はそういう忍耐を持ち合わせていないので、全くわからないまま、ただ字を追いかけて、耐えて耐えて最後のページにたどり着いた。

サラーっと三日ぐらいでああいう本を読んだところで、もとよりカントなんかを理解できるはずはないのだけれども、それでも、もっとしっかり読み込めば、わからないなりにも何かを得ることはできよう。私には何もわからなかった。カント以前に、「カント入門」を読めなかったということがわかった。「カント入門」の門の敷居は高いということだけはわかった。それをわかるための本としては良かった。

そういったことは、ジャズやロックのアルバムでも同じことが言えて、長いトラックは苦手である。特にジャズなんかは10分を超す演奏が1トラックに収められているのはざらである。LPレコードなら、片面2曲とか、そういったけしからんことが平気に行われている。10分間の演奏ならば、ソロ回しが8分ぐらいある。ライブでも8分のソロ回しは長く感じるだろう。演奏にもよるけれど。

例えば、マイルス・デイヴィスの「In a silent way」なんかはA面に1トラックだけ、18分16秒である。18分を通して聴くのはなかなかパワーがいる。A面の1曲目くらいは、短くてさらっとしたのを入れて欲しいところだ。まあ、「In a silent way」はとても素晴らしいアルバムだから、このA面も何とか頑張って聴き通すことはできるし、楽しめるのだが。それでも、体力がいることには変わりない。

その点、一曲ごとの演奏時間が短いアルバムは良い。何より手軽に楽しめる。手軽でいて、決して演奏そのものが軽いわけではない。短いトラックの名演奏も当たり前だけれど存在する。

Jimmy Smithの「Crazy! Baby」は各トラックが短くて簡潔でヨロシイ。1曲目の「When Johnny comes marching home」は約9分と長いのでなかなかしんどいのだが、この際聴き飛ばして仕舞えばいい(とても熱い素晴らしい演奏なのですが)。その他は各曲5分前後の演奏なのでスルスルと聴くことができる。

何よりもスタンダード曲を何のてらいもなく、かつジミー・スミスらしく演奏しているのが良い。凝ったアレンジではなく、キメも定番のやつで、ジャムセッションのようにシンプルに仕上げている。

ジミー・スミスのトリオが端整で良い。息が合っているし、Donald Baileyのドラムがきっちりとビートを刻む上で、オルガンのジミー・スミスが結構のびのびと、濃い味付けで、クドイぐらいに演奏していて良い。ギターの Quentin  Warrenもバッキングは控えめながらも、ソロになるとソウルフルで良い。あんまりギターのソロとっていないのだけれど。短いソロの中でやりたいことを存分に表現しているようで良い。

ジミー・スミスがあんまり小難しいことをやっていないのも、ここではよく出ている。ジミースミスって、デビューした頃の演奏聴くとちょっと騒がしくてイマイチ好きになれないのだけれど、このアルバムとかVerveでケニー・バレルとグラディー・テイトとトリオでやっているアルバムは好きだ。特にVerveのやつオルガントリオの一つの完成形だと思う。

ハードバップのアルバムは、ダラダラと長くソロをとるレコードが結構あるんだけれど、このぐらいの演奏時間のトラックでいい演奏もたくさんある。

名盤が多いジミー・スミスのアルバムの中でも「Crazy! Baby」は各トラックが短いジャズの名演奏が詰まっている。

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